22 ナイトメア

Mission22 ナイトメア


 嵐の夜が明けた朝、青空が広がる1日。
願いがかなうといわれる洞窟に、ウィンズの4匹が訪れていた。
入り口に立つ看板には、「願いの洞窟」と書かれている。
「行きましょうか」
ルナがそう呼びかけた。
歌声の石をしっかり持っている。
彼らの願いはただ1つ。
――レイを、この世界に呼び戻す。

 一行は洞窟に入っていく。
だがその時、周囲の風景が何かおかしいことに気づく。
「な、なに!?」
振り返っても、今さっき入ってきたはずの入り口が見えない。
上下左右すべての空間が、ゆがんでいる。
「これじゃ戻れないよ……」
「進むしかないな」
他に手もないので、まっすぐ進んでみることにした。
すると、行き先に光が見えてくる。
その光を目指して進む。
しかし。
「あれっ!?」
なんと、そこには「願いの洞窟」と書かれた看板。
なぜか入り口に戻ってしまったのだ。
ロットが無言のまま、再び洞窟の入り口に駆けだす。
「あっ、ちょっと!」
ルナが止めるのも聞かず、洞窟の中に入っていく。
が、10秒するかしないかのうちに出てきた。
「一体どうなっているんだ!?」
「ワカラナイ……」
「あたしにも全然」
考えても答えは出てこない。
一行は、ひとまず出直すことにした。

 基地に戻ってきた頃には、すでに日が傾いていた。
今日の活動を終える。

 その夜、ルナは不思議な夢を見ていた。
以前セラフが出る夢を見た時と似たような、そんな感覚がしていた。
目の前に、1匹のポケモンが現れる。
三日月を思わせるような外見をしている。
「私は……私はクレセリア……」
見慣れないポケモンにルナは少々戸惑った。
クレセリアが、何やらただならぬオーラを発しているように思えてくる。
「あなたの存在が……世界を破滅の道へと追い込んでいます」
「……!!?」
ルナはいきなり驚いた。無理もなかった。
突然現れた見知らぬポケモンに、こんなことを言われたのだから。
何も言い返せないまま、クレセリアが次の言葉を発する。
「あなたがこの世界にいるために、あなたがここに存在するために……」
クレセリアの放つオーラが強くなる。
ルナにとっては、邪悪ささえ感じられるようだった。

「このままだと……世界は滅んでしまうのです!!!」

突然、周囲が光に満ちた。

「うわああああああっ!!!?」
ルナは飛び起きた。一瞬にして、夢から現実へと戻ったのだ。
息は乱れ、びっしょり汗をかいている。
「はあはあ……な……なに、今の……?」
やっとのことで落ち着く。
「今の、夢よね……?それにしても変な夢だった……」
窓から外を見る。まだ真っ暗だった。
ルナはもう少し寝ようとした。
だが先ほどの夢が気になり、再び寝付くことはできなかった。

 翌朝。
ウィンズがポケモン広場を歩いていると、見慣れた3匹のポケモンとすれ違う。
「……おっと」
「お主らか」
FLBだった。
――フレッドなら、何か知ってるかも。
「あの、聞きたいことが……」

 ルナ達は、昨日の出来事を話した。
願いの洞窟に入ろうとしたが入れなかったことを。
「なるほど……それは、もしかすると……」
4匹とも、フレッドの次の言葉に集中する。
「空間のゆがみの影響、ということが考えられる」
「空間の……ゆがみ?」
聞きなれない言葉に、一行は面食らった。
「さよう。時の破壊の危機は去ったのだが、
 今度は空間に異常が発生しているという話をいくつか聞いておる。
 願いの洞窟の入り口にも、その影響が出ておったか」
「イツカラ起キ始メテイルノダ?」
イオンの質問。
「そうだな……3週間ほど前から、空間のゆがみが発生するようになった」
「3週間……私達が未来から帰ってきたあたり?」
ルナが過去の記憶をたどって言った。
続いて、グレアの質問。
「なんとかする方法はないのか?」
その言葉に対する返事も素早く返される。
「今のところ、空間のゆがみについてはワシらも調査中でな。
 詳しいことはわかっておらん」
フレッドが話を区切る。続いてビリーとレオンがしゃべり始める。
「確か、パルキアっていったかな。空間を司るポケモンがいるって聞いたことがある。
 もしかしたら、そのパルキアに何かあったのかもしれないな」
「居場所は空の裂け目だって話だ。だが、具体的にどこなのかは誰も知らねえ」
パルキアに何かあった――考えられることではあると、ルナは考えた。
星の停止が目前に迫った時は、時間の神であるディアルガが暴走していた。
であれば、今回も――
「いざとなればお前らに協力を頼むかもしれない。その時はよろしくな」
レオンが言った。
「じゃ、オレらは行くぜ。また遠くまで行って、調べてくる」
ビリーがその場を離れる。フレッドとレオンも続いた。

 その後、ウィンズは情報収集を行った。
しかし有力な情報は得られないまま、この日の活動も終わる。

深夜、ルナはまたしても夢を見た。
昨夜に引き続き、クレセリアが現れる。
ルナは、今度は自分から話しかけてみた。
「……教えて。どうして私はこの世界にいてはいけないの?」
クレセリアは静かに語る。
「あなたは1度未来へ行き帰ってきたポケモンです。
 そのために、空間のゆがみを引き起こしているのです」
その言葉に、ルナはフレッドの話を思い返した。
空間のゆがみが起き始めた時期は、ちょうど未来から帰って来た時期と重なる。
「これ以上、空間のゆがみが大きくなると……
 しまいには、この世界が崩壊してしまうのです」
ルナは言葉を出そうとした。だが、何も言うことができない。
「あなたは、この世界にいてはならない存在なのです!」
クレセリアの姿が消えてゆく。
「絶対に……いては……ならない……」
クレセリアが消えた途端、ルナもまた夢から覚める。

 朝になっても、ルナは気分が晴れなかった。
2日続けて聞いたクレセリアの話が、重くのしかかっている。
「どうしたの?なんか今日はすごく元気なさそうだよ?」
ロットが声をかけてくる。
――いつも元気でいいなぁ。でも、ロットの言う通りかも。
「ううん、な、何でもないの」
「そう?無理しちゃダメだよ?」
それから、4匹は朝食をとって基地を出る。

 ポケモン広場を歩いていると、1匹のポケモンが近づいてくるのに気づいた。
「あっ!ウィンズでゲス!」
突然、声をかけられる。
トレジャーギルドのファスだった。
「よかった、見つかって……」
ファスはひどくあわてた様子だ。
「一体どうしたんだ、そんなにあわてて?」
「そ、それが……」
ファスは、深呼吸を1つしてから言った。
「アリアちゃんが、大変なんでゲス!!」
「えええっ!?」
またしても、予想外のことが起きていた。

 ファスに連れられ、4匹はトレジャーギルドの本部を訪れた。
プクリンの顔のような外観は、以前訪れた時と変わっていなかった。
その中の一室に、アリアが横たえられている。
ギルドのメンバー達も、大部分が集まっていた。
アリアの兄、スティラから話を聞く。
「それが……ずっと寝たままで、全然起きてくれないんです」
見たとおり、アリアは眠っている。
しかし。
「うううっ……ううううっ……」
ひどくうなされている様子だった。
「大変だよ……助けなきゃ」
「どう考えても、あれは悪い夢でも見ているんだろうな。ヘイヘイ」
ギルドの一員であるギザが、そう言った。
だが……トレジャーギルドのNo.2で、情報通を名乗るノーテですら
解決策を全く思いつかないでいた。
悪夢にうなされ続けるという話は、さすがの彼も聞いたことがないという。
どうしていいかわからず、助けを呼ぼうと飛び出したファスがウィンズを見つけたのだ。
そのファスが突然つぶやく。
「せめて、どんな悪夢を見ているのかわかれば……」
「おっ!そうか、なるほど!
 ……って、どうやって夢の中なんて見るんだよー!!」
デシベルがノリツッコミを仕掛ける。いつもながら大声だ。
ファスはすっかり委縮した。
「いや……できるかもしれないぞ」
この場にいる全員が、ノーテに注目する。
「スリープなら、もしかすれば……」
「スリープといえば……」
「夢ノ中ニ入レルラシイト、聞イタコトガアル」
イオンはそう言ったが、ルナとグレアは別のことを考えていた。
「俺達が以前とっ捕まえた誘拐犯だ!」
「あの時は、警察隊に引き渡したわよね?」
彼らは、警察隊に連絡を入れてみた。

 誘拐犯として逮捕されたスリープのタピルは、まだ拘束の身だった。
数匹のコイルに連れられ、タピルが現れる。
彼も、話はここに来る途中で聞いていた。
以前やったことの罪滅ぼしになるかはわからないが、少しでもアリアの力になれるならと
協力を引き受ける運びとなった。

 うなされるアリアを前にして、タピルはしばらく無言のまま意識を集中させていた。
やがて集中を解くと、言った。
「どうやら、アリアの夢の中に入っていけそうだ」
集まったポケモン達が、少しだけ盛り上がる。
「だが、なぜか邪悪な空気を感じる。入っていくなら十分注意してくれ」
あとは誰が入るかだが。
タピルとギルドのポケモン達の視線が、ウィンズの4匹に向く。
そして、ノーテが言う。
「我々が行くより、あなた達にお任せする方がよいと思います」
そう頼まれれば、断るわけにはいかない。
「わかった。俺達で行ってくるぜ」
「ちょっと待った」
グレアの台詞を、タピルが遮った。
「アリアは今非常にデリケートな状態にある。あまり多くのポケモンを送り込むのは危険だ。
 オレの感じるところだと……2匹が限度だな」
2匹。では誰が行くか。
少しの間、沈黙の空気が流れる。
「私が行くわ。なんだか、行かなきゃいけないような気がするの」
そう言ったのはルナ。
すると。
「わかった。じゃ、もう1匹は……」
「ここはあたしに行かせて。ルナを放っておけないから」
グレアより先に、ロットが名乗り出た。
「ボクハソレデ構ワナイ」
一方、グレアは黙っていた。
無言のまま、ルナとロットを見る。だが。
「……任せたぜ」
もちろんギルドのポケモン達も、そしてタピルも反対することはない。

 ルナとロットは、アリアの夢の中に入った。
不気味な暗闇が広がっている。
悪夢の中だということを考えれば、想像できたことなのだが。
そして、なんとも形容しがたい空気が漂ってくる。
だが、しっかり足の立つ地面はあった。
目の前には1本の道。
「暗いね……気をつけていこう」

 夢の中は、洞窟のように広がっていた。
ところどころ足場が悪く、油断すると落ちてしまいそうになる。
しかも、ピクシーやラッキーなどのポケモンまで現れる。
「なんで襲ってくるんだろうね!」
「やっぱり、ここが悪夢の中だからかしら?」
ルナとロットの2匹だけで挑む戦闘は、かなり厳しいものだった。
ギリギリの戦いが続いている。
「疲れた……」
ルナが息を切らす。
「まだまだグレアやイオンには及ばないわね、私……」
弱気なルナを、ロットが明るく元気づける。
「何言ってるの、やってやろうよ!あたし達だけでも十分戦えるって、あの2匹に見せたい!」
明るさを失わないロットに、ルナは心の中で強く感謝した。
しかし、どこか不自然さも感じる。

と、その時。
「うわわっ!?」
ロットが突然転んだ。ルナがすぐ駆け寄る。
「大丈夫?」
「う、うん……けどなんでこんなところに石なんか転がってるかな」
確かに、そこには少し大きめの石があった。
これにつまずいたのだ。
ロットは近寄り、その石を派手に蹴飛ばす。
見事な放物線を描いて飛んで行き、何かに当たる音がした。
数秒後、ルナとロットは異様な殺気を感じ振り返る。
真後ろに、ピンク色の大きなポケモンが立っていた。ハピナスだ。
顔に青筋が刻まれているではないか。
よく見ると、頭にはタンコブが1つ。
「石……当たっちゃった?」
その瞬間、ハピナスは素早く左手でロットを拾い上げ
右手を振りかぶる!
「これを!」
だが、それより一瞬早くルナがふらふらのタネを投げた。
ハピナスの目が回る。混乱した勢いで、近くにいたププリンを捕まえている。
ロットはその隙に脱出した。
「逃げよう!」
2匹は足早にこの場を去る。
ぺちぺちという音が、連続して響いてきた。

 悪夢の中に広がるダンジョンは、彼女達の予想よりも長く続いていた。
目の前には一本道。どこまで続くか、全然見えない。
「もうちょっと奥まで行ってみようか」

 その時だった。
「ひゃっ!?」
突然、何も見えなくなった。
「あなた達は……どうやって、どうやってここに……」
どこからか声がする。
「誰なの、一体!?」
ロットが声を張り上げる。
だが、ルナには聞き覚えがあった。
たちまち、周囲が元の明るさを取り戻す(といっても暗いのだが)。

 声の主は、クレセリアだった。
「あっ!」
「知ってるの!?」
ロットはクレセリアを知らない。
「ここ数日、私の夢の中に出てきたポケモンよ!」
やはり、ここでもただならぬオーラを発している。
クレセリアは、ルナに近づきながら言った。
「ちょうどよかったです。私もあなたに会いたいと思ってましたから」
ルナは、やっとのことで声を振り絞る。
「ということは……やっぱり、私……」
「はい。あなたはこの世界にいてはならない存在なのです」
「えええええっ!!?」
ロットは状況についていけなかった。
「あなたの存在が、空間のゆがみを増幅させているというのはお話しましたよね?」
ルナは無言のままだ。
クレセリアが話の続きを言う。
「この空間のゆがみが広がるにつれて、闇の力が増幅されていくのです。
 そして……世界は悪夢に包まれる。
 ルリリのように悪夢にうなされるポケモンが、増え続けていきます」
抑揚もなく言った。
「そ、それじゃ一体どうすればいいの!?」
ロットが聞き返す。
「方法はただ1つ」
クレセリアの両目が、ルナの両目と合う。
「あなたが、この世界から消えることです!」
ルナは何度も言われていることなので驚かなかったが、ロットは違った。
ひどくあわてているのが一目でわかる。
「ちょっと待ってよ!よくわからないまま仲間を消されたくなんかないよ!!」
あわてたまま叫ぶ。
しかし、クレセリアは表情ひとつ変えずに切り返した。
「では、全てのポケモンが悪夢に包まれてもいいと?」
この台詞に、ロットは押し黙ってしまった。
そして、クレセリアはルナの目の前に立った。

「すみませんが……消える覚悟をっ!!」

クレセリアが、三日月型の体を光らせる。
それはまさに鎌のようだった。
「ルナ!!」
ロットが思わず叫ぶ。
ルナはこらえきれずに目を閉じる――

「おーーーーーい!!ルナ、ロット、どこにいるんだ!?」
いきなり、タピルの声が聞こえてきた。
突然の乱入者に集中力を乱し、クレセリアは舌打ちして攻撃をやめた。
「ちっ!もう少しだったのに!」
そのまま距離を離す。
「とんだ邪魔が入りましたが、あなたにはいずれ消えてもらいます。
 あるいは、もし世界を救いたければ……あなた自らが、消えることを選ぶべきでしょう」
冷たく言い放ち、クレセリアは去っていった。

 すぐに、ルナとロットの後ろからタピルが追いついてくる。
「帰りが遅くて心配になったんだ。2匹とも大丈夫か?」
「……うん」
タピルは、暗い悪夢の中を仰ぎ見る。
「これ以上ここにいるのは、危険なものを感じるな……。
 とりあえずは戻ろう」
3匹は、悪夢の中から脱出した。

 ギルドに戻ったルナとロットは、集まっているポケモン達に事情を説明した。
ギルドの面々は、ざわざわと騒いでいる。
その中でも、ノーテの動転ぶりは一際激しかった。
「そ、それが本当なら大変なことですよ!なんとかしなくてはっ!!」
ノーテは、クレセリアについては知っているという。
三日月の夜に現れ、体から放つやわらかい光で相手の心を癒すという。
「……けど、そんな感じには見えなかったような……」
「明らかに邪悪なオーラ全開だったよね」
続いて、タピルからの質問。
「空間のゆがみを解決する方法について、クレセリアは何か言ってなかったのか?」
ルナとロットはぎくりとした。
その反応に、タピルが少しあわてる。が、
「えーと、何も言ってなかったわ」
「そ、そうだったよね」
あえて真実は言わなかった。
「そうか……残念だな……」
ここでノーテが場をまとめる。
明日以降、空間のゆがみを各自で調べるということになり、
今日のところは解散となった。

 夜、ウィンズ基地。
いつにも増して、ルナは沈みきっていた。
食事すらほとんど手をつけようとしない。
「どうした?」
グレアが声をかける。
「……何でもないの。ただ、疲れただけ」
元気のない表情で静かに言った。
少しばかり、時間が流れる。
「……ルナ、ここでなら話していいんじゃない?」
ロットの言葉に、ルナは目線を真っ直ぐ上げる。
目の前にはグレアとイオンもいる。
「……ふう」
大きく息をする。
「わかった。みんなには本当のことを話すわ」
ルナは、自分が見たクレセリアの夢について、
そして悪夢の中での出来事について話した。
ギルドで質問された時にはごまかした、空間のゆがみを解決する方法も。
「そんなことが……」
「ルナ、あなたが消える必要なんてないよ。どこかに突破口があるはずだから」
「そうだぜ、俺達だっている」
ロットが、そしてグレアが力強く言った。
「……うん」
だが、ルナの表情は暗いままだった。

 深夜、ポケモン達が寝静まる時間。
全く眠れないルナは、外に散歩に出かけた。
静まり返った夜のポケモン広場では、誰とも会うことはない。
――ここにいるみんなを守るには、世界を悪夢から救うには……
  やっぱり、私が消えるしかないのかな……
足取りは重かった。
空だけじゃなく、ルナの表情まで暗かった。

 ウィンズ基地に戻ると、建物の裏にロットがいた。
「……ルナ?」
「どうしたの?」
「眠れなくてね……」
「私も」
ルナは、ロットの隣に座った。

 夜空を見上げて、ルナが話し始める。

「私……本当は消えた方がいいのかな」
いきなりの言葉に、ロットはひどく驚いた。
ルナが話を続ける。
「ずっと考えてたけど、どうしてもそう思っちゃうの。
 クレセリアの言う通り、本当にそれしか方法がないのなら」
聞く側のロットは、何も言わない。
「レイは自分が消える覚悟で世界を救った。
 今回も私がいなくなれば、それで……」
その時、ルナは頬に鋭い痛みを感じた。
ロットが本気でルナをたたいたのだ。
大きな目に涙を浮かべながら、ロットはルナに詰め寄った。
「どうして?なんで消えようとするの?それで世界が救われるから?
 ルナはそれでいいの?本当にそれでいいの!?」
ルナは何も言い返せない。凍りついたように固まっている。
「あたしは全然よくないよ!世界が平和になったって、ルナがいなくなったら意味がないんだよ……。
 星の停止を食い止めた時だって、レイが消えちゃったよね……。
 つらいのはルナだけじゃないんだよ……あたしだって、本当はすごく苦しいんだよ……」
フリーズしたままのルナに、ロットがしがみつく。
「お願いだから、あきらめないでよ……。
ルナまでいなくなっちゃったら……あたし、もう生きていけない……」
くっついたまま、ルナはロットの顔を見た。ぼろぼろと泣いている。
ルナは動かない。だが心は激しく動揺する。
涙が自然に出てきた。止めようにも止められない。

 しばらくして、ロットはルナから体を離した。
空が明るくなってきた。朝日が昇る。
「……思い出した」
「え?」
突然のルナの台詞。ロットが反応する。
「前に、カミルと一緒にこの朝日を見た時のこと」


「あの時、未来でディアルガ達に囲まれた時、なぜお前はあきらめなかった?
 どうしてあそこまで、気持ちを強く持てたのだ?」
聞かれて、ルナは少し考える。
「どうしてかな……私にもわからないな、正直。
 でも、もしかしたら……レイがいてくれたからかもしれない」


 思い出しながら、ルナが語る。
「そう……私はレイがいたから、がんばってこれた。
 そして、今はそのレイを呼び戻したい。言えなかったことがあるの」
ここで、今まで話を聞いていたロットが1つ問う。
「やっぱり……ルナはレイのこと好きなんだよね」
ルナは何も言わず、ただ頷いた。
ロットが、再びルナにくっつく。
「あたし、思うんだ……。ルナがいなきゃ、レイは帰ってこないんじゃないかな」
「え?」
ほぼ反射的に聞き返した。
「わかってたよ、あたしにも。レイはルナのこと好きだって。
 せっかく帰ってきたって、ルナがいなきゃさびしいだけだと思う」
ロットの鋭さに、ルナは内心ちょっとだけびっくりした。
「ルナはこんなところで消えちゃいけない。
 必ず生きて、空間のゆがみも悪夢もなんとかしてみようよ。そうすれば……」
「……うん」
その時、ルナはさらにロットに体を寄せた。
「ありがとう。私がこんなに落ち込んでたから、心配してくれたのよね。
 頼りになる仲間がいてくれるというのに、私また1匹で悩んじゃってた」
一息入れて、続ける。
「私はもうあきらめない。必ず生きてみせるわ。
 そして……レイをこの世界に呼び戻す!」
目の前にいるロットの表情が、明るくなっていくのが見えた。
夜の闇はすでに消え去っていた。

 この日、4匹は広場を中心に情報収集を行った。
しかし手掛かりを見つけることはできなかった。
辺りが暗くなってきた頃、一行は基地に戻ってくる。
しかし。
「ひゃっ!?」
突然、地震が起きた。それと同時に。

グオオオオオオオォォォォォォッ!!!!

とてつもない咆哮が響いてきた。
4匹が基地から出てみると、そこに巨大なポケモンが立っていた。
「ついに見つけたぞ!空間をゆがめる、その元凶を!!」
突然現れたポケモンは、すさまじい威圧感を放っている。
「誰だ、お前は!?」
グレアが前に進み出た。
「オレはパルキア!空間を司る者!」
その名に、4匹は驚いた。
空間を司る神・パルキアが、まさか向こうから現れるとは。
「もう逃げられん!観念しろっ!!」
パルキアが咆哮を上げると、周囲の空間がゆがんでいく。

次の瞬間、5匹のポケモン達はその場から消え去っていた――




Mission22でした。探検隊クリア後の話を書きました。
前回の最後が話の始まりで、
そこから夢の中のクレセリア、ルリリの悪夢、朝日を見るシーン、パルキア登場と
多くのシーンを続けて書いた話に。

原作との大きな違いは、主人公であるレイ抜きで話を進めていること。
これだけで物語の展開を所々変えていく必要がありました。
ロットに出番を多く回すというのは、以前からの決定事項。
レイがいない以上、ここは……ね。

ハピナスが襲ってきた1コマは、書いている途中で付け加えたもの。
なんだか、ハピナスって本当は腹黒いイメージが。
……そう思うのはBlackだけか?

さて、パルキアが現れどうなることやら……?

2008.11.05 wrote
2008.11.14 updated



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